Je te veux

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細やかな妨害(だと思っていたが、殿下に「あれが細やかだと思えるなら、お前の神経はどうなっているんだ」と言われた)で音を上げると思われていたのだろう。人を侮るにも程がある。 「そういう事情なら、せめて休職に留めて下さい。収入が途絶えると、思っている以上に厳しいですよ」 「それも考えたんですけどね、どこから子供の話が漏れるかわかったものではないでしょう? 追求された時に、嘘でも『親戚の子供』だとか言いたくありません」 アーヴィングは思案げに顎へ手をやった。 「なら、普段は預けておくとか」 「却下。私より預け先の大人になつかれたら立ち直れません。絶対嫌です」 「……隊長殿、意外と面倒臭い人だったんですね」 「母親になる身です。そう思って何が悪い」 ふんぞり返って堂々と言い切れば、何故かアーヴィングから疲れたような溜め息が返ってきた。 「いいじゃないですか、何一つままならないんですから、そのくらいの我が儘を言っても」 「妾妃でもいいんですけど」なんて冗談を飛ばすのが日課になってはいるものの、殿下がそれを出来ない立場なのも、私が望んではいけない立場なのも理解している。 ただ、人聞きが悪いので人前で言うのだけはやめてくれと殿下に御願いされることは多々あるが。 「取り敢えず、辞めるのは保留にして、頭を冷やして下さい。話はそれからにしましょう」 全くと呟き、アーヴィングが踵を返す。 「あ、こら、待ちなさいアーヴィング!」 「仕事を丸投げする貴女と違って、私は忙しいんです」 「それでは私が何もしてないみたいに聞こえ……」 「自分の興味のある仕事しかしないのですから、強ち間違いではないと思いますが?」 じろりと睨まれれば、私の方が立場は弱い。
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