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「フォードック卿、お元気そうで」
リドリー・ロレンゾは漆黒の槍の副隊長で、二年前から盗賊取り締まりの責任者として地方へ派遣されていた。
彼はシュナイダー卿の信頼も厚く、何よりもクセ者のところが気に入られている。所謂、見た目は好青年だが『性格に難あり』だ。そして、ホロク・ドレナンテの幼馴染みでもある。
リドリーは、自分達が会話している隙に逃げようとしたホロクの首根っこを、しっかと掴んで自分の方へ引き寄せた。
「久し振りなのに、逃げるなんて酷いじゃないか」
「か、か、帰って来るなら……!!」
「手紙の一つでも、って? そんなことしたら逃げるだろう?」
リドリーのいつも笑顔に見える細い目が余計に細められる。それがまたホロクの恐怖感を煽るのだが、リドリーは分かってやっているので、これまた質が悪い。
「真名まで教えてくれた婚約者なんだから、もっと温かく迎えてほしいもんだ」
「子供の頃の話だろう!! しかも本気じゃなかった!!」
「それでも真名を交わしたことに変わりない」
遊びでやったら、どちらも聞こえてしまったという、ホロクにとっては苦い過去。当たり前だが、本人達より親達の方が真っ青になった。それからは、未成年者(十六歳以下)が真名を口にするのを禁止する法令が出来たのである。
「さて、我々は去るとしよう。ライオネルド、行くぞ」
「ん? あれ、ほっといていいのか?」
「邪魔すると、後が怖い」
台詞の意味が分からず首を傾げているライオネルドを促して、シュナイダー卿は二人に背を向けた。
プライドもかなぐり捨てて助けを乞うホロクを容赦なく見捨てて、シュナイダー卿は、いい気味だと呟いた。
このエピソードを聞いた優奈は、「やっぱ呪いだよね」と口にして、隣にいたロシュ・スタットを地の底まで落ち込ませたらしい。
どっとはらい。
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