Je te veux

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アーヴィングが行ってしまってから、私は考えていた。 現実的に堅実な生活をしようと思えば、アーヴィングが言うことの方が正しい。子供がある程度大きくなってから復帰するという手が無きにしも非ず。とは言え、また同じ職につけるかもわからないし、その間に……万が一、殿下が再婚などという話になったりしたら……、近くでずっとそれを見続けなければならない。 他のどんなことでも許容出来るが、それだけはもう嫌だ。 次の正妃はアゼルよりも器量が良くて、性格が悪くないかもしれないのだから! 自分の思考に沈み込んでいるうちに、ふと気付けは、殿下の執務室の前まで来ていた。無意識とは怖いものだ。 あの一件で、修復しなければならなくなった第二離宮から全ての荷物が運び出され、サルマト殿下は第一離宮へ、ルノー殿下とロゼオ殿下は本宮へと住まいを移した。 とは言えどちらも仮住まいだが、本宮は王のお膝元、どちらの后を王が優遇し、また、誰が次代の王になるのかということを強調したいのだろう。 サルマト殿下が冷遇されているのはしょっちゅうなので、本人はあまり気にしないようにしているようだ。 私は王宮が離れるにあたって、ルノー殿下と顔を合わせる機会が減ったことに笑みを隠せない。「あからさま過ぎるぞ」とサルマト殿下に苦笑されたくらいだ。が、その殿下自身もルノー殿下に会わなくて済むのが嬉しいのか、表情自体は明るかった。 コンコンコン ガチャ 「私です」 「……それは、戸を叩く意味がないだろう?」 呆れ顔の殿下と、扉を守る騎士達は苦笑いである。これもいつものこと。 「まあいい、どうした?」 「特に用はないですけど、貴方の顔が見たかったので」 「……そうか」 殿下はお疲れ気味らしい。それ以上特には突っ込まずに大きく溜め息をついた。
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