Je te veux

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普段なら、何かしら文句が飛んでくるか、「ちゃんと仕事をしろ」と怒られるところなのだが……、たまにはこんな日もあるかと私は一人ごちた。 それでも殿下の邪魔するのは少し躊躇われたので、長椅子の上でぼんやりとこれからのことについてを考えてみた。 幸せについて本気出して考えてみたら、殿下を拐って逃亡生活……しか思い浮かばなかった。何て貧困な私の想像力。夢物語以外の何物でもない。そもそも、駈け落ち(?)してくれるくらいの愛情が殿下にあるわけがないし、現実的に考えれば、殿下の生活能力にも不安がある。 殿下の立場から考えてみると、長い付き合いの上、体の関係があるから、私に情が湧いてるのだろう。ほら、あれだ。拾ったリャム(猫のような生き物)が可愛く思えるのと同じようなものに違いない。 ……自分とリャムを同位におくのはどうだろう。少し卑屈過ぎるか。 あの時、女神の装身具より私を優先してくれた。それだけでもう死んでもいいと思った。……私も大概安い女だったらしい。どんなに気取ったところで、本音は普通の女と変わらない。 「セラフ」 「何でしょう?」 「アゼルのことが片付いたら、次の妻を娶ろうと思うんだが」 遂にきたか。私はそう思った。 覚悟していたこととは言え、殿下の口から出てくるだけで重みが違う。 「……ええ、その方がよろしいかと。次の奥方はああいう強欲な方でないといいですね」 「それは大丈夫だろう。贅沢には興味がないようだから。それに、……私に何があっても支えてくれるようなくれないような。……とにかく、これからの人生に必要なんだ」 予想外。もう既に候補がいるらしい。 殿下を支えてくれて、愛とは言わなくても信頼関係を築けるような優しい姫君……、駄目だ、そんな女だったら、私に勝ち目はない。 「……セラフ、それでだな」 聞きたくない。 「あ、私、用事があったのを忘れていました」 「は?」 思いきり不自然、そして棒読み口調で言った私に殿下は怪訝な顔を向けた。 「それでは失礼します」 後から聞いた話だが、何故か私は扉ではなく、普通に窓を開けたらしい。そして、窓からひょいっと外へ出たそうだ。……正直この時は平然を装うのに必死で、何をやっていたかなど、ちっとも覚えていない。取り合えず、お腹の子のことを考えれば、一階で良かったと心底思う。
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