Je te veux

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全く、殿下のことになると、私はまるで小娘だ。つまらないことで一喜一憂し、くだらないことを気に病む。本当に恋というものは厄介だ。 「こうなると一番簡単なのは、私が適当に誰かと結婚することですかね」 他の男の子供を身籠っている女を引き受けてくれる奇特な男がいるとは思えないが、それが一番のような気がする。嫌でも吹っ切れるきっかけになるだろう。 「なら、私と結婚しますか」 「は?」 「誰でもいいなら、構わないでしょう?」 予想外にもほどがあるアーヴィングの発言に、流石に私の目も丸くなる。一体何の冗談だ。 「自分で言うのも何ですが、私は甲斐性もあり、浮気もしませんし、束縛もしません。貴女が一線を退いた後は昇格する可能性も高い。そして、殿下の情報も手に入る。なかなかお値打ち品だと思いますよ?」 「なるほど。ですが、それは私の利益ばかりで、あなたの得がありませんよね? 何を企んでるんですか?」 アーヴィングは軽く肩を竦めた。 「結婚の申し込みに、企むも何もないと思いますけど。この際なので言いますが、私は他人に全く興味が持てませんでしたが、貴女が相手だと調子が狂う。それは不快であり、また楽しいものなのです。そんな貴女が傍にいてくれたら、人生を面白おかしく過ごせそうだと思いまして」 「……正気ですか?」 私の表情を見て、アーヴィングが失笑、と言うよりは柔らかな微苦笑を浮かべる。この男のこんな表情を初めて見たかもしれない。 「……せめて、『本気ですか?』と聞いて欲しかったですね。因みに、私は酔ってもいませんし、イカれてもいません」 「これは失敬」 どうやら私は、人生の分岐点に立っているらしい。思いもよらずモテていて、何故だか求婚されている。 普段なら一蹴して終わり、なのだが……。 「そうですね……一考の余地はあるかもしれま……」 「ちょーーーーーっと待ったぁ!!!!」 唐突に、がさがさっという大きな音と、物申す声。その方向へ顔を向けると、厳しい顔つきのサルマト殿下が立っていた。 剣の腕はからっきしでも、気配を消すのは巧いのか。少し見くびってた。しかし、何故こんなところに? それに、髪に小枝やら葉やらがくっついているような。
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