Je te veux

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そんな自分の身なりも気にせず、殿下がアーヴィングを指差した。 「セラフ! 何ですぐに断らないんだ!? お前はこいつと結婚したいのか!?」 「いえ別に。多少アーヴィングの付加価値によろめきはしましたけど……。どうしてそんなに興奮してるんです?」 何か殿下の気に障る話をしていただろうか。殿下が腰に手を当てて溜め息をついた 「話の途中でいなくなるわ、部下の求婚を受けようとするわ、今日のお前は一体どうしたんだ」 「受けようとはしてませんよ、一考の余地があると言っただけで」 「最終的に受け入れたら同じことになるだろうが! と、とにかくだな、私の話を……」 言葉を続けようとした殿下と私の間をアーヴィングが遮った。 「恐れながら殿下、――邪魔です」 「あ、主に向かって……」 アーヴィングの毒舌は殿下にもとどまることを知らない。 「人の恋路を邪魔する者を主と認めろとおっしゃる。仕方ありません、百歩譲って認めても構いませんが、あと数週間ほどはこの状態だと思って頂きたく……」 「一体いつ認める気なんだ!?」 殿下は半泣きだ。何ですか、可愛いな、もう。 もうちょっと見ていたい気もするが、殿下の泣き顔を見るのは私だけでいい。有能な部下であれ何であれ、その権利は譲れない。 私はアーヴィングへと向き直った。 「アーヴィング、やめなさい。殿下はか弱いし頼りないのは本当ですが、貴方が思うほど情けなくはありませんよ」 「セラフ……お前は人を励ましたいのか落ち込ませたいのかどっちなんだ……」 「私は真実を話しているだけですけれども?」 「……そういやお前はそういう奴だったな……」 殿下ががくりと肩を落とした。 何か悪いことを言っただろうか。頼りないし、レイナ姫に負けるほど弱いのは本当のことだ。でも、私を見捨てないで装飾具を惜しげもなく手放した殿下は情けなくなんかない。 世界で一番格好良かった。 ……ああ、やはり私が好きなのは殿下だけだ。他の男なんて道端の草同然。そんな私が他の誰かと結婚など出来るわけがない。 「アーヴィング、考えてみましたが、答えは『否』です。申し訳ありませんが、貴方の求婚はお断りします」 アーヴィングはやれやれと言いたげに軽く首を振った。 「でしょうね。あまり期待はしてませんでしたので構いませんよ。……お幸せに」
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