捻くれLove heart

4/6
前へ
/110ページ
次へ
お見合いなんてもうどうでもいいのに、マルチェドの王子の顔を潰すわけにもいかず、憂鬱な気分のまま身仕度を整え、かつて廃墟と化しかけた貴賓室へと侍女達に促される。 中にはお祖父様と、 「…………ですので、このお話はなかったことにして頂けませんか」 「うーむ、それは……しょうがないですな。因みに、どこの娘かはおわかりになるのかの?」 「それが、名前も知らなく…………いた、ここに」 「あ」 ばっちり目が合った。お祖父様と話していたのはさっきの人だった。もしかして、この人がマルチェドの王子なのかしら? ……だとしたら、この話はなかったことになるわね、間違いなく。 そう思ったら、何だかちょっと胸が痛い……気がしたけど、きっと気のせい。 「これサリア、ちゃんと挨拶せんか」 「……マリアサリア・ラル・ロシュナンドです。先程は失礼致しました」 私だって挨拶程度なら問題なく喋れる。ただ、それ以外となると、どうにも上手くいかないのだ。 「君がサリア姫だったのか。この子です、僕の運命の人は。やっぱり、この話はなかったことにしないで下さい」 「そりゃ願ったり叶ったりですがのう……」 う、運命の人? マルチェドでは不思議な冗談が流行っているのかしら。だって、好かれそうなことなんか何一つしてないのに。 「なんじゃ、サリア、いつ王子と会ったんじゃ?」 「……先刻庭で……その、ちょっと」 お祖父様に尋ねられても、リャムを助けてもらったのに暴言を吐いてしまった方です、とは流石に言えない。 「ええ、庭を拝見させて頂いていた時に会ったんです。世界一可愛い僕のお姫様に」 僕の? 世界一? 可愛い!? 「で、殿下、それは真ですか!?」 「ああ、こんな可愛い人、生まれて初めて見たよ」 「何と喜ばしい! ついに殿下に春が……!!」 話についていけない私を放って、何だか盛り上がってる……? 「あの、聞いてもよいかしら」 「なんでしょう?」 「何がそんなに喜ばしいのかしら?」 「実は、殿下は人の顔の見分けがつかないのです」 「どういうことなの?」 「声と体格や髪型などでは区別できるようなのですが、どんな美女を見ても、子どもの落書き程度にしか見えないらしく、一生結婚はしないとおっしゃっておりました!」 これが喜ばずにいられますか! と力説した王子の従者に複雑な気分を抱いた。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3540人が本棚に入れています
本棚に追加