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午後8時。
バイト終わりの彼とファミレス近くのカフェで待ち合わせ。
彼が来てくれるなんて保証は無かったけど、彼は来てくれた。
シャツとカーディガンのセットアップにジーパンという、今時の私服姿に、バイトでは掛けていなかった眼鏡を掛けている。
しかも、黒縁。
「遅くなってすいません」
「いいの、誘ったの私だから」
「それで、話って何ですか?」
目的は彼と話すことだった私は、核心を突いた質問にどう返せばいいか分からない。
「……あ、あのね、彼のことで相談に乗って欲しくて」
「慎次のことですか?」
「そう、私付き合い始めたばかりで、まだ彼のこと知らないの」
「慎次に直接聞いたらどうですか?あいつなら答えてくれますよ」
「それは嫌で。
「俺、慎次とは高校から別れたし、最近はあんまり知らないんです」
「それでもいいの。翼くんから見た慎次くんを教えて欲しいの。昔のことでも何でもいいから、お願い!」
参ったなと困惑そうに、彼は頬を掻いた。
幼なじみの彼女の相談に乗るなんて、彼にとっては迷惑な話だろう。
けれど今、彼と私を繋いでるのは、慎次くんのことだけ。
嘘だと分かっていても私は、彼と話すきっかけが欲しかった。
「……分かりました」
「それは良いってこと?」
「俺に出来ることなら協力しますよ」
「ありがとう」
その日の帰り道は嬉しくて、三日月の下をいつもよりゆっくり歩いて帰った。
この幸せが出来るだけ長くようにと願いを込めて。
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