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「嘘つき」
俺はその一言だけで、全てを失いそうな気がした。
俺は今まで彼女を騙してきた。
最初はただの暇潰し、好きにさせて捨てる遊び。
今思えば、なんて残酷な事をしていたのかと過去の自分を殴りたくなる。
そして今日、彼女から呼び出され、そろそろ終わりかと考えていた矢先のこと。
「気付いてたよ。あんたがあたしのこと、本当に好きじゃないこと」
今までの女と彼女は違っていた。
初めから、俺の本心を見抜いていたのだ。
俺は何も言えなかった。
いや、否定する言葉も肯定する言葉も俺は彼女に言えない。
「……好きだよ。だからさ、あたしを振って?もうこれ以上居たら、前に進めないから」
そう言って笑う彼女の瞳には涙が溜まって、それ堪える彼女が悲しい程綺麗で。
いつもなら冷たく別れを告げる筈なのに、彼女からの言葉に俺は動揺した。
彼女と離れたくない。
そう思ってしまった。
泣いている彼女を抱きしめて、謝ることが出来たらどんなに幸せだろう。
そう思うことさえ、俺には罪だと分かっているのに。
俺はなんて愚かなんだ。
今更、彼女の大きさに気づくなんて。
「…好きだよ。俺、本当に「嘘つき」
告白を遮り、その一言を残して彼女は走り去っていく。
その言葉は、静かに二人の終わりを告げていた。
その日生まれて初めて、女のことで泣いた。
もう叶うことない
伝えられない想いを涙に乗せて。
ただ彼女のことを想って。
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