手紙のち奇跡

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『俺にも彼女が出来ました。』 一年前、久しぶりの彼からの手紙は決勝コンクール前日のこと。 三年前に別れた彼とは二ヶ月ごとに手紙が届いていた。 私も最初は頻繁に返事をしていたが、ピアノの勉強が忙しくなるとなかなか返せないときもあった。 最近はお互い忙しく、一年に二回程度のやりとり。 そして、久しぶりの手紙の内容がこれだ。 彼に見栄を張って、彼氏が出来たと嘘を書いたのが今から二年前。 それから二年なら彼女が出来てもおかしくはない。 けれど私は、手紙に喜びの言葉を並べながらも、素直に喜べないでいた。 それから半年後の現在、私は凱旋コンサートで三年振りに帰国。 今回はコンサートが目的なのに、次第に彼に会いたいのが一番の理由になってた。 帰国すると、すぐに彼へ連絡。 彼には帰国することを知らせなかった為、私が帰ったことに驚いていた。 そして、その日の夜に会う約束をした。 場所は二人でよく行ったバー。 「久しぶり、元気だった?」 「えぇ。貴方も相変わらずみたいね。なんか安心した。」 三年振りに会った彼は、以前よりスタイルも良くなって、スーツが似合う男前になっていた。 その日は彼に話したいことが沢山あった。 コンサートのことや今までの三年間のことなど、話したいことがあった。 それに比例して、聞きたいことも色々あった。 別れてからのこと、彼女のこと、知りたいことも色々あった。 どれから話そうか考えてる間に、彼の電話が鳴る。 彼は、ふと携帯のディスプレイを見て微笑んだ。 「ごめん、少し話してくる。」 そう言って彼は携帯を取り外へ。 きっと彼女からだろう。 直感は見事に的中した。 「ごめん。彼女から電話あってさ、話また今度でもいい?彼女酔ってて帰れないらしいからさ、送ってかないと。」 「分かった、また連絡するね。」 そう言うと、彼は伝票を持って店を後にした。 それは彼の大切なものが、他の場所にあると感じた瞬間だった。 .
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