手紙のち奇跡

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駄目だ。 此処には思い出が有りすぎる。 彼の前ではポーカーフェイスを決めてたつもりなのに、涙を堪えることが出来なくなっていた。 零れそうになる涙を堪えて、席を立つと彼の座った席には紙袋。 中身は有名ブランドのシルバーリング。 雑誌でも有名なリングで、今では入手困難なレア物。 これをプレゼントするのは私じゃないことは確か。 最初は次に会った時に渡そうと、家へ持ち帰った。 けれど素直に返すなんて、今の私には出来そうにない。 だから、彼に少し悪戯を。 思い付いたら即行動の私は、練習前にある場所に向かった。 「へぇ…此処なんだ。」 向かったのは、彼女のマンション。 遠回し言えば、ストーキング。 はっきりに言えば、彼の忘れ物を渡しに。 彼の新しい彼女は、セレブでも貧乏でもないらしい。 彼女の部屋のドアノブに紙袋を掛けた。 紙袋に手紙を添えて。 これが、私の最後の贈り物。 彼に私がしてあげられること。 そして彼のマンションには一通の手紙を。 冗談半分、本音半分で書いた手紙。 貴方の願いが叶いますように。 ただそれだけを思って。 悪戯完了。 こんな子供みたいな事をするのは、これが最初で最後。      けれど、私は忘れない。    彼を好きだと言う事実は、これから先も変わらない。 たとえ貴方が忘れてしまっても。 私はきっと忘れない。 END.
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