第一章

9/15
前へ
/86ページ
次へ
  「しかしね、先程言ったように、感性力異能者は他人の感性を必要とする場合が多い。それは、誰でもいいというわけではないんだ」  そこまでくれば、何となくわかってきた。  彼が叶助を調べ、そして接触してきた理由が。 「適合因子、とでも言うのかな。君にはそれがある」  信じられない。  自分にそんなものがあるなんて感じたことはないし、しかも話を聞くとそれじゃまるでただ利用されるだけの存在だ。  ファンタジックであっても主役ではない。わざわざ主役になりたいとも思わないが、あまりにお粗末な配役だ。 「とても付き合いきれませんよ」  呆れて、思わずため息をついた。  ――その時だった。  まるで、吐いた先から吸い込まれるような感覚。  口から出た息はすぐに大気に拡散した筈なのに、そこに留まりそして吸収されていく。  その行方は、息吹楓の右手。  目に見えないはずの『ため息』が、確かにそこに集まるのを叶助は目撃した。  青白い光が、息吹楓の手の中で放電するように輝いている。  感性力異能者――彼が、そう。マインダーとやららしい。 「信じてくれたかい?」  これを見て、何を疑えと?  今の叶助は大掛かりな手品を見たって魔法だと信じそうなくらい、混乱していた。  そんな彼の意識を引き戻したのは、よく澄んだ声だった。 「待ちなさい、ド悪党!」  植え込みの中から颯爽と登場したのは、――いや、颯爽ではない。枝に裾が引っ掛かって丁寧にそれを解いてから登場したのは、こともあろうかクラスメートで今や叶助の宿敵ともいえる人物、  言葉殊美、その人だった。  
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加