第ニ章

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   ちなみに、叶助のチケットは一度笑名先輩に譲渡してから改めて叶助が買ったものである。  何故そんなことをしたかと言えば、言葉とは違い笑名先輩は叶助が誘ったのだから、自腹を切らせるのは心苦しいと思ったからだ。それでも、その他経費は先輩が持ってくれたが。  そして、言葉の分は気を使って笑名先輩が出すというのだから、結果的には叶助が言葉の分を出したような形になってしまった。  もっといえば、笆乃が言葉にチケットを渡した方が早かったようにさえ思える。 「上映は四つ。時間は、まあギリギリと」  言葉がボードを見ながらそう言った。 「一番余裕がある奴でいいんじゃないか」  笑名先輩が指したのは、コメディー映画だった。爆笑必須などとCMで銘打って自らハードルを上げた映画だ。 「予定では、この調度いい時間のを」  ハンカチ必須の感動ストーリー。選んだのは笆乃だ。 「いや、ここは自腹を切る人間に任せるべきだわ」  言葉は、性格に似合わずベタベタなラブコメだ。一人では見にいきたくない、連れ必須な映画だ。 「それを言ったら先輩もでしょ」 「つーか、言葉は自腹じゃないだろ」  チケットは間接的に叶助が払ったものである。 「ここは発起人の意見を尊重しようよ」 「でもでも、笆乃さんはそんなにその映画が見たかったの?」 「いえ、まあ……」 「あたしはこの映画とても見たかった。だったらやっぱりこれでいいじゃない」 「ついて来た分際でわがまま言うなよ言葉」 「じゃあ能登は何がいいのよ。そうよ、誘われたアンタの意見こそ優先すべきだわ」  わざと何も意見を出さなかったと見抜いているらしい。  どの映画を選べば八方収まるのやら。 「いや、やっぱコメディーだよなぁ、キョウスケ」 「せっかくなんだから感動して帰りましょうよ、能登くん」 「あんたデートをナメてんの? あたしの言ってることわかるよね、能登」  三人に迫られ、悩んだあげく叶助は、思わず真上にある看板を指差した。 「これを見よう」  それがどれであっても後悔はしない。  そう思って顔をあげ、そして早速後悔した。 「ホラー……?」  誰かの呟きが静かに響いた。  
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