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結局、その後も男女に別れたペアは継続した。
笆乃と言葉は意外にも仲良くしていたし、笑名先輩はやはりどこか遠慮した様子であった。
それでもそれなりに楽しめたと叶助は思ったし、言葉も笆乃と話している時は楽しそうだった。
(って、なんで奴の心配をしなきゃならないんだよ……)
最後の最後で自己嫌悪してしまった。
しかし、何にせよ悪い一日ではなかった。むしろ、思っていたよりはずっと良い一日になったと思う。
「今日はありがとね、能登くん」
いつの間にか、叶助の隣には笆乃がいた。
そこにいた筈の笑名先輩は仏頂面の言葉に笑顔で話しかけていた。
「私、思ってたよりずっと楽しかった」
笆乃も叶助と同じように思っていたらしい。
「最初に能登くんがあの人の名前を出した時は少し驚いたけど――」
ちらりと笑名先輩に視線を向けた。
「コトちゃん、あの人のことが好きなのね」
「……言葉から?」
「聞いたかって? ううん。でも、見てれば何となくわかるわ」
言葉の仏頂面を見る限りではそうは見えない。
「能登くんは知ってたの?」
「ああ。本人から聞いた」
「そっか」
「そういえば、笆乃は先輩とどんな知り合いなんだ?」
以前、笑名先輩が笆乃を訪ねてクラスにやってきたことが会った。
その時、笆乃の方は、笑名先輩のことを知っているようだった。
笑名先輩の方は笆乃をよく知らないようだったが。
「気になる?」
「まあね」
「教えてあげよっか」
「お願いします」
「あの人はね――私の好きな人」
鼓動が跳ね上がる。
体温が空に奪われるかのように、血の気が引いた。
まともなレスポンスは出来そうになく、口を閉じたら呼吸すらままならなかった。
世界で一番聞きたくないコトバだ。
「――の彼氏」
「……は?」
「私の大好きな姉の彼氏なのよ」
「あ、ああ……お姉さんがいらっしゃるんですね」
空から体温が降ってきた。
もしかしたら、笆乃はとんだ小悪魔かもしれないと、叶助ははじめて思った。
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