第一章

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         /1  颯爽、というコトバを使うにはややぐだぐだな様子で少女は現れた。いや、窓から飛び降りるまでは良かったのだが、その後の間が何とも拍子抜けを誘う。  ともあれ、目の端に涙を溜めながら、少女は宣言したのだった。  ――その告白、待った。  所謂、『ちょっと待ったコール』というやつだろうか。  普通は、同じ相手を想う男子が告白に待ったをかけて参上するものである。  しかし、現れたのはどうみても女子だった。  変則的な予想は出来るが、それより本人に訊ねた方が早い。  そう判断して行動に移したのは笆乃だった。 「どうしたの、コトちゃん?」  言葉殊美――コトノハ コトミ。通称、コトちゃん。  容姿やや端麗、成績普通の一般美少女で、ついでに叶助と笆乃のクラスメートだった。  笆乃はともかく、叶助はあまり会話したことが無かったし、告白を邪魔される程恨みを買っていたとは思えない。  しかし、言葉は何も語らずに呆然と立ち尽くす彼の腕をとると、 「じゃ、悪いけど」  そう笆乃に告げて歩き出した。  当然、叶助は移動する気がなかったので、言葉は腕を伸ばした状態で静止を余儀なくされる。 「ちょっと、歩きなさいよ」 「いや、待ってくれよ。えっと……言葉さん?」 「何かしら?」 「いったい、何の真似?」  笆乃も戸惑いを隠せない様子で、言葉の様子を眺めていた。  二人の視線を一身に受け、やれやれと言った様子で言葉は彼の腕を離した。 「だからね、能登が今しようとしてた告――」 「わあ! 待て待て!」  慌てて叶助が言葉の口を抑える。  とてつもなく今更なことだが、自分が告白しようとしていたと、改めて言われるのは憚れる。  何せ、その相手は目の前にまだいるのだから。 「コトバを選べ」 「あー、つまり“それ”をちょっと待って欲しいと言ったの」  それは聞こえていた。その台詞は空からも降ってきたし、彼女が着地した後にもまた聞いた。  しかし訊いているのは、その理由だ。 「コトちゃん、能登くんの事が好きなの?」  笆乃が訊ねる。 「はん、まさか」  鼻で笑われてしまった。 「アンタらがめでたくイチャイチャなさろうが、知ったことではないけど、今は待ってと言ってるの」 「だから何故?」 「内緒」  言葉は人差し指を口にあててそう言った。  
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