第ニ章

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  「能登!」  言葉が叫ぶ。  そうだ、呆然としてる場合じゃない。  だが、冷静でいられることなんて出来なかった。  言葉とて好きな人の口唇を奪われたのを目撃したはずなのに、彼女は叶助よりずっと冷静に状況を判断しているようだった。  叶助を庇うように下がらせ、そして相手の動きから視線を外さない。  しかし、連中の狙いは叶助や言葉ではなく、笑名先輩と――笆乃にあるようだった。  ふと気づく。  笆乃がキスをした理由。  叶助に期待をさせておいて、裏切るような行為の意味。  叶助の涙が消えた先、笆乃の手の中の光。  それらが意味するものは、つまり、笆乃は――、 「へえ、こんなに適合するんだ」  笆乃は感心した様子で手の中の光を見つめる。  詰め寄ってきた敵の攻撃は、笑名先輩の“笑み”が作った見えない壁によって阻まれた。  そして、傍らの笆乃は、叶助の涙から吸収した光を自らの中に取り込む。  すると、笆乃の身体が淡い輝きを放ちはじめた。  それが、笆乃が持つ異能の力。 「その力、間違いない。『ラフ』、『クライ』だな」  相手のリーダーがそう言ったのが聞こえた。  『ラフ』と『クライ』。  前者は笑名先輩であり、後者は―― 「笆乃……が、感性力異能者」 「能登、逃げるわよ」 「でも二人が」  ふいに、何かが割れるような甲高い音が響いた。  割れたのは笑名先輩の“障壁”であり、そして割ったのは笆乃だった。  打ち出した拳から発する衝撃波で、内側から。  その向こうにいる敵もろとも、弾き飛ばしたのだ。  笆乃の身体から、余波のように溢れ周囲に拡散する粒子は、場違いな程に笆乃の美しさを引き立たせた。 「能登、行くわよ。きっと大丈夫よ」  叶助は頷きはしなかったが、その場に残ろうともしなかった。  その力――笆乃が持つ異能の力を実際に見てしまったら、もうその場に留まることは出来なかった。  喪失感にも似た絶望を残したまま、言葉に手を引かれるままに叶助はその場を後にした。  笆乃は一度も振り返ることはなかった。  
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