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「こんな時に言うのも何だけどさ……」
「何よ」
「いや、笆乃が言ってたんだけどね、あんな事があったから本当かどうかはわからないけど」
「……何なのよ」
「笑名先輩、彼女いるってさ」
言葉が目を見開いて叶助を見上げる。
「笆乃のお姉さんの彼氏だって」
幽霊みたいな足取りで言葉は叶助に近寄り、叶助の顔を見上げたまま、
「ぐはっ!」
腹を殴った。
「なんで!?」
「バカ! 能登、アンタ、泣いてる女の子に追い撃ちかけんな!」
「まだ泣いてな――」
いや、泣いていた。
先程まで泣きそうなのを堪えていたのに、今は確かに光るしずくを言葉は零していた。
これは、つまり叶助が泣かしたといっても間違いないだろう。
「あ……、すまん」
「バカ、死ね!」
今度は頭から叶助の胸に突進し、そのまま言葉はすすり泣く。罵声のコトバを吐きつづけながら。
叶助はどうしていいかわからず、とりあえずその頭を撫でた。
「――女の子を泣かせるとは、君も悪い男だね」
言葉の身体の震えが止まる。
叶助は無視してそのまま言葉の頭を自分の胸に押し付ける。
「休日に二人でデートかい?」
いつからいたのか、息吹楓が立っていた。
無視し続けようかとも思ったが、あまりに苛立ったので出来なかった。
「アンタな、もっと空気読めよ」
「失礼。しかし、ちょっと不穏な噂を聞いてね。これでも心配してやってきたわけだが……これは、馬に蹴られそうだね」
言葉はゆっくりと叶助から離れる。
その瞳にもう涙は浮かんでいなかった。
「そうね……別に能登と恋路を歩むつもりはまったくないけれど」
光が集まる。
今まで充電してきた僅かな『告白』が、力となって言葉の右手に収束する。
「ま、待て。君達に敵意があって来たわけではないんだ」
「そう。でも、残念。そちらの事情はともかく、こっちには敵意があるのよ」
言葉は一歩進み出て、微塵の躊躇いもなく、息吹楓めがけて“それ”を放出した。
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