第三章

5/30
前へ
/86ページ
次へ
  「そうか……おっと、そこが事務所なんだ。立ち話もなんだし入りたまえ」  三階建ての建物の二階に、その胡散臭い探偵社は事務所を構えていた。  ある意味、敵の拠点であり、そこまで深く入り込むのは少々勇気がいる。  しかし言葉は、そんなことを気にする様子もなく階段をあがっていく。 「せっかく来たんだから、文句のひとつでも言ってやろうかしら」  そんな様子で、しかし叶助の腕はしっかり掴んで離さずにずんずんと進む。  事務所の中に入るとすぐに仕切りのようなものが目の前にあって、叶助達は左側の応接室のような狭いスペースに通された。  息吹楓は一度反対側の部屋に行き、代わりに数分後に社員らしき女性がお茶とお菓子をお盆に乗せて現れた。 「どうぞ」 「ああ、お構いなく」 「ごゆっくり」  にこりと笑って去っていく。 「社員、いるのね」  隣に座る言葉が意外そうに呟いた。 「みたいだな」  出されたお茶とお菓子は、一応手を出さずにおいた。  そして、言葉にやられてボロボロになった上着を脱いでワイシャツ姿になった息吹楓が戻ってくる。 「すまない。話を続けようか」  叶助達の正面に座り、お茶を一口啜る。 「先程、君達も接触したみたいだが、感性力異能者を集めた集団の活動が最近目立っていてね」 「そいつらは、いったい何をしようとしてるんだ?」 「さあ。目的は不確かだが、決して穏やかな話じゃないのは確かだ」  実際に襲われそうになったのだから、その信憑性は伺えた。 「そいつらをぶっ倒すのに協力しろって?」  言葉は単刀直入にそう訊ねる。  しかし息吹楓はそれを否定した。 「いや、そちらは我々が何とかする。君達にそこまで危険なことはさせられないし、こちらとしても野良――無所属の君にはそこまで動いてもらいたくない」 「ああ、そう」  ふん、と鼻を鳴らして言葉はソファに踏ん反り返る。  そこまで偉そうな態度はとれないが、叶助も腕を組んで訝しむような目で息吹楓を見据えた。  
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加