第三章

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  「けど、それも笆乃が言っただけで」 「その点で嘘をつく理由がある?」 「嘘をつく理由はないかもしれない。だけど、その前に笆乃はこういったんだ『笑名先輩は私の好きな人――の彼氏』って。それって多分、俺の反応を見るためだよな? 俺が本気かどうか見るためだよ」  だから、嘘じゃなくても何かしら反応を見るための道具は欲しかったはずだ。  その為の嘘だとしたら、少しは納得がいく。 「そんなことの為に話をでっちあげるって?」  言葉は鼻で笑う。  しかし叶助は引き下がらない。 「どうしても、確かめたかったんだよ。俺が本気で笆乃が好きかどうか」 「何故?」 「それはつまり――最初から、俺の哀しみが目的だったから」  言ってみて、自分の首を絞めているのだと気づいた。  しかし、そこでコトバを途切れなかった。 「告白されたとしても、断るつもりでいたかもしれない。そうすりゃ、俺の哀しみが笆乃の力になる。そうでなくとも、保険をかけといて損はない」  実際、結果をみてみれば、それは役に立っているのだ。  叶助が本当に笆乃を好きだからこそ、笆乃の口づけに哀しみを覚えた。  そして、笆乃は『クライ』という感性力異能者だったのだ。  結果ではなく、過程をみたって信憑性はある。  そもそも、笆乃のような人気者の女子が、能登みたいな平凡な男子の告白ひとつを待ち続ける方がどうかしている。  たいした接点もないのに、視線を感じていただけで勘違いしていたのだ。  その視線とて、叶助の『適合因子』とやらを狙っていたのかもしれない。 「――だから、言葉。お前は、……」  言葉の手が、叶助の頬に触れる。 「ありがと。優しいね、能登は。でも、いいのよ。どのみち、あたしはあの人の前で笑顔一つ見せられないんだから」  そう言って、悲しい程の満面の笑みを浮かべた。  その笑顔を笑名先輩に見せれたら、どれだけ良かったことか。 「告白、しなよ。邪魔はしない。諦めるのはそれからでしょ」  ね? と、静かに首を傾げて、言葉は叶助の頬から手を離した。  
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