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まったく要領を得ない。
しかも、放課後にでも呼び出せばよかったものの今は昼休みだった。
長引くと笆乃に悪いし、叶助も昼食をとれなくなる。
あわよくば成功した暁にはそのまま笆乃と一緒に昼食をとるなんて夢も、刻一刻と不可に近づいていた。
「言葉さん、頼むから、どっか行ってくれないか? 用があるなら後でいくらでもきくから」
「本当? ――いや、駄目。この機を逃すわけにはいかないわ」
「能登くん、私はべつに今じゃなくても」
「待っててよ、笆乃。ああ、もういっそこの場で」
「駄目ぇぇぇ! 待ってって言ってるでしょ!」
勢いのまま告白しようとする叶助の首を、言葉が後ろから腕を回して締め上げる。
「苦し――! ギブ、ギブ!」
叶助がタップするが、言葉は離そうとしない。
「じゃあ、今は告白しない?」
耳元で、そう脅しをかける。
心配そうに見つめる笆乃の姿が、段々と歪んでくる。
「わ……っ……た」
するりと腕が抜け、叶助は膝をついて咳込む。落ちる寸前だった。
「今、わかった、って言ったわよね?」
勝ち誇ったような表情で覗きこむ言葉を、叶助は睨むように見上げる。
言葉はその視線に怯むことなく、屈託のない笑顔で頷いた。
「よし」
何を了解したのか、言葉は笆乃に視線を向け、そしてその手をとった。
「さあ、笆乃さん。彼は貴女への用件を忘れたみたいよ。教室に戻りましょう」
「で、でも……」
憐れむような視線を向ける笆乃に、叶助は手を挙げて、行っていい、と応える。
チャンスはまだいくらでもあるし、ここでごねたら今度は彼女が言葉に襲われかねない。
最後まですまなそうな表情を浮かべながら、笆乃は言葉とともに去っていった。
こうして、叶助の一世一代の大イベントは、失敗に終わったのである。
没収試合という形で。
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