第三章

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   言葉は再び歩きだした。  先程よりもずっと穏やかな歩調で。  完全に動きを停止していた叶助は、急いで言葉を追いかける。 「言葉っ」 「能登! たまにはあたしが告白しよっか!」 「えっ?」  唐突に、言葉は努めて明るい声でそう言った。 「あたしがさ、この『力』を捨てない理由。好きな人の前で笑顔を隠してまで、しがみつく理由を、アンタに告白してあげる」  叶助は頷いた。  言葉は、叶助の方は見ずに語り出す。 「この力はさ、『ブレス』はああ言ってるけど、壊したり傷つけたりするだけの力じゃないんだよ。要は力の使い方次第で、守ったり、癒したりも出来るはずなの」  確かに、笑名先輩や息吹楓は攻撃だけでなく、自らを守る壁を作っていた。 「ただ、何かを癒すっていうのはとても大きな力が必要で……あたしの『告白』の力でもそう簡単には出来ない」  それは、あらゆることに共通して言えることだ。  大抵のものは、壊しやすく、治しがたい。 「感性力異能は、力を引き出す条件が複雑な程大きな力になる。あたしの『告白』はとても限定的だから、結構強いのよ。でも駄目。いくら基本スペックが高くても、その燃料がなくちゃ」 「それで、俺の告白を?」 「うん、そう」 「言葉がその力で治したいものって、いったい……?」  言葉は一度空を仰ぎ、力強い瞳で答える。 「心よ」 「こころ?」 「とても大切な友人が失った心を、あたしは治したいの」  その為に、今『力』を失うわけにはいかない。  言葉は、叶助にそう告白した。 「それには……後どれくらい、『告白』が必要なんだ?」 「わからない。溜めた分はちょくちょく使っちゃってるし……でも、出来ないことはないって信じてるから」 「そう、か」  悪意など最初からなかったのだ。  あるはずものかった。  あったのは、ひたむきで健気な献身。  それだけだった。  
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