31人が本棚に入れています
本棚に追加
言葉は再び歩きだした。
先程よりもずっと穏やかな歩調で。
完全に動きを停止していた叶助は、急いで言葉を追いかける。
「言葉っ」
「能登! たまにはあたしが告白しよっか!」
「えっ?」
唐突に、言葉は努めて明るい声でそう言った。
「あたしがさ、この『力』を捨てない理由。好きな人の前で笑顔を隠してまで、しがみつく理由を、アンタに告白してあげる」
叶助は頷いた。
言葉は、叶助の方は見ずに語り出す。
「この力はさ、『ブレス』はああ言ってるけど、壊したり傷つけたりするだけの力じゃないんだよ。要は力の使い方次第で、守ったり、癒したりも出来るはずなの」
確かに、笑名先輩や息吹楓は攻撃だけでなく、自らを守る壁を作っていた。
「ただ、何かを癒すっていうのはとても大きな力が必要で……あたしの『告白』の力でもそう簡単には出来ない」
それは、あらゆることに共通して言えることだ。
大抵のものは、壊しやすく、治しがたい。
「感性力異能は、力を引き出す条件が複雑な程大きな力になる。あたしの『告白』はとても限定的だから、結構強いのよ。でも駄目。いくら基本スペックが高くても、その燃料がなくちゃ」
「それで、俺の告白を?」
「うん、そう」
「言葉がその力で治したいものって、いったい……?」
言葉は一度空を仰ぎ、力強い瞳で答える。
「心よ」
「こころ?」
「とても大切な友人が失った心を、あたしは治したいの」
その為に、今『力』を失うわけにはいかない。
言葉は、叶助にそう告白した。
「それには……後どれくらい、『告白』が必要なんだ?」
「わからない。溜めた分はちょくちょく使っちゃってるし……でも、出来ないことはないって信じてるから」
「そう、か」
悪意など最初からなかったのだ。
あるはずものかった。
あったのは、ひたむきで健気な献身。
それだけだった。
最初のコメントを投稿しよう!