第一章

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         /2  その熱視線を感じはじめたのは、今の学年に進級して一度目の席替えをした頃からである。  やがて、それが自分より後ろの席の誰かだと気づくが、まだ特定は出来なかった。  しかし、最近になってようやくそれが、クラス一の美人(叶助の主観)である笆乃哀の視線だと気づいたのだ。  笆乃の席は、叶助の席から桂馬飛びの右側後ろ。  告白を失敗した午後の授業でも、その視線は感じられた。  ふと振り返ると、笆乃と視線が交差する。  昼休みはごめんなさい、と訴えているようだった。  とんでもない。悪いのは笆乃ではなく、言葉だ。  叶助は振り返った視線を少しずらす。  笆乃の左斜め前の席、つまり叶助のすぐ後ろの席にそいつは座っていた。  叶助の視線に気づくと、そいつは満面の笑みを浮かべて唇を動かす。  読唇術の心得はなかったが、何となく理解できた。  ――残念。  何が残念だ。邪魔した張本人のくせに。  叶助は憤慨しつつ前を向く。  そう、言葉の席は叶助の後ろの席だった。  今までは笆乃の視線以外はまったく印象になかったが、今日ばかりは真後ろに死神でも据えているような気分だった。  そして放課後。    当たり前のように、そいつは邪魔をしにきたのである。 「どこに行くのかな、能登くん?」  白々しく訊ねてきたのは言うまでもなく、言葉だった。 「掃除だよ。言葉さんも、掃除いったら?」 「あたしは今週掃除なしだもの」  当番表に視線を向ける。確かに、言葉の班は掃除がない。  叶助と言葉は前後の席だが、ちょうど班の境目だった。  ちなみに、笆乃と言葉は同じ班である。 「笆乃さんの姿が見えないんだけど、知らない?」  訝しむように言葉が訊ねてくる。 「さ、さあ? 掃除ないんなら、帰ったんじゃない?」  笆乃には既にメールで再戦を申し込んである。  メールが使えるならそれで伝えれば早いのだが、それは叶助の主義から外れる事だった。  
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