第一章

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  「ま、いいや」  そう言って、言葉は叶助の後をついて来る。 「……言葉さん?」 「何かしら?」 「いや、何?」  叶助の向かう先は掃除区画である。  そして、当番となっているのは男子便所だ。  まさか、ついて来る気ではあるまい。 「あはは、ごめんごめん、あたしもトイレ」  男子便所と女子便所の分かれ道で、言葉は当然女子便所へ入っていった。  叶助は小さく息を吐いて胸を撫で下ろし、男子便所に入った。 「おう、来たか」  そこには既に同じ班の男子がモップや雑巾を持って立っていた。 「すまん、明日は俺一人でやるから」 「いいってことよ。何か知らんが、邪魔されたんだろ?」  直接話したわけじゃなかいが、その友人達は叶助の事情を知っていた。 「コトちゃん、お前の事好きなのかね」 「違うと思う」 「じゃ、逆か。嫌がらせ?」 「わからないけど。とりあえず、今日は頼む」 「おう、頑張ってこい」  友人達の声援を背に、叶助はトイレの窓から身を乗り出す。  これなら言葉にばれずに外に出ることが出来る。  掃除は終えてからでも良かったが、笆乃を待たせたくなかったし、カモフラージュのために掃除中に抜け出すことにしたのだ。  その代わり、今日の分の掃除は明日一人で引き受けると班の友人に約束して。  今日の為なら明日の掃除など安いものだ。  叶助は慎重に外に出る。  上履きのままだが、この際仕方ない。  昼休みと同じ場所へと急ぐ。  そして、脱力したように膝をつく。  その場所には、笆乃とそして女子トイレに入ったはずの言葉がいたのだ。 「何も、昼と同じ場所を指定しなくても……」  邪魔をしにきつつも、呆れたような表情で言葉はそう言った。  笆乃も、今日は諦めた方がいい、というような表情で苦笑を浮かべている。  無論、絶対に今日である必要性はないのだ。笆乃も待ってくれているようだし、あるいは言葉も本当に何かしらの事情があって邪魔をしているのかもしれない。  彼女が言っているのは、止めて、ではなく待って、なのだから。  叶助は大きなため息をついた。 「ごめん、笆乃。せっかく待っててくれたんだけどさ」 「いいよ、いつでも」  そう言ってくれる笑顔だけが救いだった。  
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