31人が本棚に入れています
本棚に追加
笆乃の救いの笑顔と言葉のムカつく笑顔に見送られながら、叶助は校舎へと戻る。
ちょうど掃除を終えたらしい同じ班の奴らに遭遇したが、彼らは叶助の表情を見るなり同じようにため息をついてくれた。
励ましも兼ねてゲーセンにでも、と誘われたがまだ失敗したわけではない。延長しただけだ。
叶助は誘いを丁寧に断り、明日の為に今日は早く帰って休むことにした。
しかし、考えれば考えるほど謎である。
何故、言葉は叶助の告白を邪魔するのか。
叶助に好意を抱いてる?
そう考えもしたが、だからと言って邪魔だけしてもあまり意味はない。むしろ、言葉に対して印象が悪くなるばかりだ。
では、逆に叶助が嫌いで邪魔をしている?
その可能性もあるが、それほど嫌悪されるような身に覚えはない。
席が前後とはいえ、ほとんど話したこともない――というか、席が後ろであることすら気づいていなかった――ような女子にどうやって嫌われようか。
叶助ではなく、笆乃に好意を抱いているとか?
それも有り得なくはないが……。
「はぁ……」
考えたところで答えは出やしない。出るのはもっぱらため息ばかりであった。
「おやおや、素敵なため息をつくじゃないか」
叶助は顔を上げる。
かなり顔立ちの整った男が、微笑を浮かべて前方に立っていた。
辺りを見回しても、誰もいない。
どうやら、叶助に向けられたコトバらしい。
顔に見覚えはない。
いや、見覚えがあったとしても、第一声で「素敵なため息だね」などと言うようなキザな人物に挨拶してやる義理はない。
叶助は構わず無視して通り抜ける。
「そのため息、僕にくれないか?」
どうやら、新手の変態らしい。
変態に新手も古手もあったもんじゃないが。
「ふむ。交渉が出来ない相手には、武力を以て対話を望む主義なのだけど」
不吉なコトバが聞こえたので、叶助は一応立ち止まる。
男は爽やかな笑みを浮かべるが、逆に不気味だった。
「何も危害を加えるつもりはないから、安心していい」
「何ですか?」
「ため息が欲しい、そう言ったんだ」
最初のコメントを投稿しよう!