第一章

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   笆乃の救いの笑顔と言葉のムカつく笑顔に見送られながら、叶助は校舎へと戻る。  ちょうど掃除を終えたらしい同じ班の奴らに遭遇したが、彼らは叶助の表情を見るなり同じようにため息をついてくれた。  励ましも兼ねてゲーセンにでも、と誘われたがまだ失敗したわけではない。延長しただけだ。  叶助は誘いを丁寧に断り、明日の為に今日は早く帰って休むことにした。  しかし、考えれば考えるほど謎である。  何故、言葉は叶助の告白を邪魔するのか。  叶助に好意を抱いてる?  そう考えもしたが、だからと言って邪魔だけしてもあまり意味はない。むしろ、言葉に対して印象が悪くなるばかりだ。  では、逆に叶助が嫌いで邪魔をしている?  その可能性もあるが、それほど嫌悪されるような身に覚えはない。  席が前後とはいえ、ほとんど話したこともない――というか、席が後ろであることすら気づいていなかった――ような女子にどうやって嫌われようか。  叶助ではなく、笆乃に好意を抱いているとか?  それも有り得なくはないが……。 「はぁ……」  考えたところで答えは出やしない。出るのはもっぱらため息ばかりであった。 「おやおや、素敵なため息をつくじゃないか」  叶助は顔を上げる。  かなり顔立ちの整った男が、微笑を浮かべて前方に立っていた。  辺りを見回しても、誰もいない。  どうやら、叶助に向けられたコトバらしい。  顔に見覚えはない。  いや、見覚えがあったとしても、第一声で「素敵なため息だね」などと言うようなキザな人物に挨拶してやる義理はない。  叶助は構わず無視して通り抜ける。 「そのため息、僕にくれないか?」  どうやら、新手の変態らしい。  変態に新手も古手もあったもんじゃないが。 「ふむ。交渉が出来ない相手には、武力を以て対話を望む主義なのだけど」  不吉なコトバが聞こえたので、叶助は一応立ち止まる。  男は爽やかな笑みを浮かべるが、逆に不気味だった。 「何も危害を加えるつもりはないから、安心していい」 「何ですか?」 「ため息が欲しい、そう言ったんだ」  
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