217人が本棚に入れています
本棚に追加
/456ページ
青年は歩いていた。
俯き、両サイドに注意を払いながら、早足に歩いていた。
背の高い身体を少し折り曲げながら、大股で進む。
微妙に紫がかった銀の髪は揺れ、額に巻いているバンダナにかかる。
その髪は真ん中に分けており、長さは耳の下程度。
汗が浮いた浅黒い肌は、髪の色と対比させていた。
独特な模様のある服は、ここの都市の伝統的衣装であり、歩くとは逆の方向にたなびいている。
青年はふと立ち止まり、振り返った。
途端に青年の顔が露わになった。二十代中盤だろうか。
顔立ちは凛々しく整っている。
が、眉はひそめられ、口は固く引き結び、何やら煮詰まったような暗い顔。
そしてそのままゆっくりと周りを見渡した。
彼の上には昼間にも関わらず、暗雲立ち込める空。
一面が鉛色に染められている。今にも通り雨が来て、雷が鳴ってきそうだ。
重々しい色の下、彼の目先には、幾つもの機械が蠢いていた。
道々の工場には鋼鉄の蛆の様な機械達が、所狭しと並べられ、それぞれの役目を担って働いている。
それらは、空に黒い煙を撒き散らし、曇りを助長させていた。
此処は、工業都市ファクンダスト。
青年の生まれ故郷である。
主となる特産品は、絹、電灯、日用品、武器など様々。
というか、世界のあらゆる物はここで精製されている。
と言っても過言ではなかった。
材料を南方から輸入して、此処で電力によって機械を動かし、製品に変えている。
そして、商人が品々を買い込み、様々な市場で売り捌くのだ。
金回りはよく、かなり繁栄をしている。
しかし貿易の中流地点の為、来る者は商人のみ。
後は工場責任者と労働者が大半を占めている。
観光地にするにしても、レジャーものは少なく機械ばかりでつまらないので、お世辞にも観光客が多いとは言えなかった。
室内スポーツ観戦や賭場で大いに楽しみたいならば、王都グレンシャルへ直行するだろう。
それでも、ファクンダストは活気があった。
青年はこの都市が好きだった。
最初のコメントを投稿しよう!