一章 邂逅と発途

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青年は歩いていた。 俯き、両サイドに注意を払いながら、早足に歩いていた。 背の高い身体を少し折り曲げながら、大股で進む。 微妙に紫がかった銀の髪は揺れ、額に巻いているバンダナにかかる。 その髪は真ん中に分けており、長さは耳の下程度。 汗が浮いた浅黒い肌は、髪の色と対比させていた。 独特な模様のある服は、ここの都市の伝統的衣装であり、歩くとは逆の方向にたなびいている。 青年はふと立ち止まり、振り返った。 途端に青年の顔が露わになった。二十代中盤だろうか。 顔立ちは凛々しく整っている。 が、眉はひそめられ、口は固く引き結び、何やら煮詰まったような暗い顔。 そしてそのままゆっくりと周りを見渡した。 彼の上には昼間にも関わらず、暗雲立ち込める空。 一面が鉛色に染められている。今にも通り雨が来て、雷が鳴ってきそうだ。 重々しい色の下、彼の目先には、幾つもの機械が蠢いていた。 道々の工場には鋼鉄の蛆の様な機械達が、所狭しと並べられ、それぞれの役目を担って働いている。 それらは、空に黒い煙を撒き散らし、曇りを助長させていた。 此処は、工業都市ファクンダスト。 青年の生まれ故郷である。 主となる特産品は、絹、電灯、日用品、武器など様々。 というか、世界のあらゆる物はここで精製されている。 と言っても過言ではなかった。 材料を南方から輸入して、此処で電力によって機械を動かし、製品に変えている。 そして、商人が品々を買い込み、様々な市場で売り捌くのだ。 金回りはよく、かなり繁栄をしている。 しかし貿易の中流地点の為、来る者は商人のみ。 後は工場責任者と労働者が大半を占めている。 観光地にするにしても、レジャーものは少なく機械ばかりでつまらないので、お世辞にも観光客が多いとは言えなかった。 室内スポーツ観戦や賭場で大いに楽しみたいならば、王都グレンシャルへ直行するだろう。 それでも、ファクンダストは活気があった。 青年はこの都市が好きだった。
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