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京玉堂は日本橋横山町にある。
大名家や大奥にも品物を納め、京の高級装飾品を扱う御店らしく店の構えも立派なものだ。
「この櫛はあるか」
微塵も動揺せず店に入るなり駿は番頭らしき人物に割れた櫛を見せる。
おっかなびっくり入れば相手もされないのであろうが、そんなタマじゃない。
「少々お待ちを・・・」
下りものを扱う御店や、上方に本店のある御店は銘柄の心象をより強調するため京言葉を話すところが多い。
といってもそのままの京言葉を江戸で使ったのでは意味が通じないこともあるため、江戸風の上方言葉となっている。
櫛を見聞した店の者は奥から小さな箱を運んでくる。
中には同じ柄の真新しい櫛がはいっていた。
「こちらは流行り廃りの無い定番の良品で・・・」
「ひとつ貰おう」
説明を始めたのを遮り、駿は迷わず購入する。
「即買いしやしたねぇ」
「あぁ。後は女を捜すだけだ」
「どこの誰とも知らない女をですかぃ?」
「お前、知ってるだろ」
ぴたりと刻が止まった。
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