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着物を脱がせようと格闘していた衿を放し、衿を掻き合わせて抵抗する千里の両手首を掴んで馬乗りに押し倒す。
先ほどのこともあり、千里の体が強張った。
「いや、放して・・・」
カタカタ小刻みに震えを感じとり駿は目を細めた。
「そう脅えるな。俺に悪意は無い」
常識と良識も期待できないが、悪意は無い。
「少し頭に血が上っていたが・・・今日は本当に診るだけだ・・・まぁあんな糞共のことなんぞ忘れるくらいの事をしようと思わなくも無いが・・・」
大人しくなった千里から横に寝そべるように降り、開放された両手で涙ぐんだ顔を覆う千里の髪をさりげなく解く。
千里は気持ちに余裕が無く、駿が企んでいる笑みを浮かべていることには気がつかなかった。
「公私混同はしない。診るだけだ。恥ずかしかったらそのまま顔を覆ってろ」
こくり。
千里が僅かに頷く。
駿の語調が途中から変わっていた事に千里は気がついていない。
そして視界を閉ざしてしまったせいで、音はいつもより深く身体に浸透してしまった。
松原駿・・・この男、公言していないが声音の波によって心を支配する術を身に付けている。
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