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暗闇の部屋、決して夜の暗さではなく窓一つ無い閉ざされた空間。
そんな暗闇の部屋に微かに人間が居るのが分かる。
しかし、その人間には普通では有るはずの無いモノを身につけていた。
頭には普通の人の耳では無く動物的な耳を、下腹部には犬の様なふさふさの尻尾がある。
胸の膨らみからは女性という事が分かるが、顔は髪で覆っているので分からない。
彼女は人間の敵である妖魔と呼ばれる類のモノだった。
少女と言われても可笑しくない体には手枷や足枷、口には猿轡が付けられていた。
手枷は直接壁に、足枷は床に鎖で繋がれている。それだけなら動く事は容易だろうが、それらの枷には札が貼られていた。
呪縛符。対妖魔用に作られた札で、喋る事は出来ても札を剥がすか、貼った本人を殺すかしなければ身動き一つとる事は出来ない。別名封印符と呼ばれる道具だ。
そんな身動きをとれない彼女の目の前に、闇を消し去るかの様に一つの青い光が現れる。
それはたちまち人の形に変わっていく。しかし、その人形にも彼女と同じモノが付いていた。
そして、部屋は再び闇に包まれる。
「どうだった? 人間との生活は、楽しいものだったかい?」
「・・・・・・・・・」
声の主は男性のものだった。その声からは相手を想う優しい響きの反面、皮肉さが篭っているのが伝わって来る。
それに対し彼女は、沈黙を返すだけだった。
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