第十六章 †生きて欲しいと願いを胸に抱いて†

9/133
前へ
/689ページ
次へ
それに瘴気が含まれている、とそこまで確認して礼春は駆け出した。 背中に誰かの声が掛けられたが礼春は止まらない。 微かに感じていた違和感の正体が近くにある。 跳ぶ様に走る礼春は一キロ程をその駿足で走破し、目の前に見えた広場へ足を踏み入れた。 「これは・・・・・・」 粘液質の強い液体が踏む毎に不快感のある音を発てる。 目の前には緑の絨毯や土色の地面は存在しなかった。代わりにあるのは赤と黒が混ざり合った奇妙な水溜まり。 そんな惨状を見詰め、礼春は血の池地獄と化した地面を歩く。辺りを見回しながら中央へ歩く。 そこが惨劇の舞台だった。 妖魔の惨殺死体。懇切丁寧に積み上げられた山は一方的に、しかも抵抗すらできなかったと言ってしまえそうな程、残酷な有様だった。 芸術の様に見えるのは何故だ?と礼春は注意深く肉塊を確かめる。 「貴様、何を考えている」 身を屈め様とした礼春の首に、三又に別れた鉄の鉤爪が押し当てられていた。 礼春の細い首の皮膚が裂け、血が伝う程の至近距離。驚きは見せない礼春だったが、状況は首の皮一枚といったものだ。 「只血の匂いがしたものでな・・・・・・啜ってやろうかとっ―――!」 影虎の持つ鋭利な鉤爪が首に更に食い込んだ。 冗談も通じないのか!?と礼春が苦笑していると後ろから声が掛かる。 「グレイス!止めろ!今そいつを―――っ!!」 「なんじゃぁこりゃ!」 「鼻が、曲がりそうだ」 『なんすかなんすか?レイシェンも見たいっす!』 「今出ては、駄目です」
/689ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1055人が本棚に入れています
本棚に追加