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歌を切り裂くように断末魔の悲鳴が響き、まるで霧が立ち込めるように血の匂いが充満していく。
何が起きているのかは誰にもわからなかった。
唯一つ、このままでは自分達もその死に絡めとられるということだけは分かっていた。
そんな死と絶望に満ちた村の中心部、教会。
扉の開け放たれた入口にその男は呆然と佇んでいた。
年のころは二十前後だろうか。
金色の髪に、紫色の目。この地方では珍しくないごく平凡な男であるが、中性的な顔立ちは頼りない印象を抱かせる。
この状況で彼がここにいる理由はただ一つ。
おそらくは教会なら安全なはずと駆け込んだのだろう。
しかし、男の表情には安堵の表情は一片もなく、むしろ恐怖の表情が張り付いていた。
彼の手には短剣とロザリオ。
しかしそれがこの状況に置いて望まれる役割を果たせるかといえば答えは否。
それどころか彼の小刻みに震える指は今にもそれを取り落としそうである。
ただそれが彼の手の中にある理由はただ一つ。
今、目の前にしている光景によって崩されそうな精神の均衡を保つため。
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