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先日、すぐ隣の牛熊村(うしくまむら)が盗賊に襲われた。盗賊は食物を奪い、女子供をさらい、すべてを焼き払った。
最近、その村の周辺で盗賊の集団が頻繁に出没するという噂を聞いていた松吉は、良尚にその話をしていたのだ。
良尚はすぐに、隣村へ警戒するように指示をだし、良尚自身も何度も足を運んでいた矢先のことだった。その村の方角から煙が上がっているのに気がついた良尚は、馬にまたがり疾風のごとく村へと向かったのだ。
たとえ、良尚が間に合ったとしても、良尚の細い腕一本で何人が救えると思っているのだろうか。
いや、きっと良尚はそんな無力な自分には重々気がついているのだ。それでも向かわずにいられなかったのだろう。
きっとこの若様は、松吉たちの村が襲われても同じように身一つで駆けつけるだろう。たとえどんなに遠くにいようとも。
(まったく……たいした若様だよ)
まるで自分の息子を眺めるような暖かな気持ちで、松吉はこの十四・五の少年を見つめていた。
「良尚様」
ふと、聞き覚えのある男の声が聞こえてきた。
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