1 畑の若様

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     ◇◆      鷹雄の自室は、屋敷の敷地内にある馬屋の隣にあった。    自室といっても、馬屋に戸を付けただけで、木製の壁はところどころ腐り、隙間風が入りこむ。寝床も、土の上に藁を編みこんだ、ござを敷いただけのものだ。    それでも、鷹雄にとってはどんな立派な屋敷よりも居心地がいい鷹雄だけの場所だった。    ここがある限り、自分は良尚に必要とされている。  ここにいてもいいのだと、良尚からそう言われている気がした。    鷹雄は、その狭く薄暗い自室にその背中を見つけて、小さくため息をついた。  子供は明り採りのための窓の傍に立ち、そこから覗く青空に目を奪われているようだった。   「おい、おまえ」    鷹雄は吐き捨てるようにつぶやくと、子供の隣へ腰を下ろした。土の上に敷き詰められた藁からは、ひんやりとした冷気が簡単に伝わってきた。   「おまえと俺は同じだ」    子供からは何の反応も感じられなかったが、鷹雄はそのまま続けた。   「おまえにも良尚様は、新しい名を下さる」    鷹雄はところどころにカビの生えた、自室の天井を見つめた。   「おまえにも、新しい人生を下さる。だから、あの方のために生きろ」    
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