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◇◆
鷹雄と分かれたあと、にわかに屋敷が騒がしくなったことで、良尚は父が帰郷したことをすぐに悟った。
しかし、なにやら様子がいつもと違う。何かあったのだろうか。
(まさか、外に出ていたことがバレたんじゃ……)
良尚は心の中で舌打ちをし、苦々しい顔をした。
もし、良尚の想像どおりならば、まもなく烈火のごとく怒り狂った父が、この部屋に押しかけてくるに違いない。
「藤乃(ふじの)……」
良尚は部屋の女官に情けない顔を向けた。
「知りません」
藤乃はぴしゃりと言い放つ。その眉はわずかにつり上がったように見えた。
藤乃は高齢の、良尚の母の代から家に仕える女官である。良尚の祖父がこの地に移住する時に、彼女も母について一緒に来た。母が良尚を産み落とすとすぐに死んでしまったため、そのまま良尚付きの女官になったのだ。
(……藤乃まで怒ってる)
「私は何度も申し上げております。仮にも、帝の御子であられた親王の血筋でありますお方が、何ゆえ身分も卑しき村人と一緒になって泥まみれになられ!」
良尚は、しまったと思った。藤乃の小言は長い。
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