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まもなく、どたん、という大きな音がし、その音の発生源を察した藤乃は、眩暈を覚え、額を押さえるようにその場に崩れ落ちた。
藤乃は深くため息をついた。
お育て方を間違えた……、と。
◇◆
良尚は、父の自室に走り込んだ時、うっかり足元を滑らせたので、父の元へ頭から滑り込む形になってしまった。
苦笑いを浮かべながら恐る恐る父の顔を見上げると、父の顔は一瞬見せた驚きから、見る見る間に険しくなっていった。
「おまえというやつはっ!」
良尚は、慌てて父の前に座り、優雅にひれ伏した。そのしぐさは、どこから見ても貴族のそれであり、どこか目を惹く気品にあふれたしぐさであった。
「お早いお戻りにつき、父上に何か大事がありましたかと、心配いたしました。ご無事なお姿を拝し、安堵しております。どうか先ほどの無礼をご容赦ください」
良尚は頭を下げたまま、すらすらと美しい言葉を並び立てた。父を案じて駆け込んできたのだと言ってのけた良尚のその様子に、父はすっかりほだされ、頬を緩ませてしまい、咳払いをしてそれを誤魔化す。
「まあ、よい。もう用が済んだのなら、下がりなさい」
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