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良尚は、すっと顔を上げ、父の顔を見つめた。父はその鋭い眼差しにわずかに、たじろぎを見せた。
(やっぱり何か隠している)
良尚は確信した。
父の命を無視して、良尚は、ばさっと音を立てて扇を開き、口元を隠す。
「父上。常陸(ひたち)の伯父上はお元気でございましたか」
「ああ、兄上は変わりない。さあ、もう行け」
「それは良うございました。下総の叔父上もお元気でございましょうか?」
父は、一瞬ぎくりとなったように見えた。だが本当に一瞬。その小さな動きは、相手が他の人ならば、父は隠し通せたかもしれない。
しかし、相手は、この家族一、いや一族一の観測眼をもつ良尚だ。
(あたりだ! 下総の叔父上に何かあったのだ)
父は、ふいに見たことの無い不敵な笑いを浮かべた。
「父上?」
「良将(よしまさ)はのう……死におった」
「え?」
背筋がぞくりとするのを感じながら、良尚は父を見つめた。
「死におったわ。はは……ははは……」
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