1 畑の若様

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 良尚は、すっと顔を上げ、父の顔を見つめた。父はその鋭い眼差しにわずかに、たじろぎを見せた。   (やっぱり何か隠している)    良尚は確信した。  父の命を無視して、良尚は、ばさっと音を立てて扇を開き、口元を隠す。     「父上。常陸(ひたち)の伯父上はお元気でございましたか」   「ああ、兄上は変わりない。さあ、もう行け」   「それは良うございました。下総の叔父上もお元気でございましょうか?」    父は、一瞬ぎくりとなったように見えた。だが本当に一瞬。その小さな動きは、相手が他の人ならば、父は隠し通せたかもしれない。  しかし、相手は、この家族一、いや一族一の観測眼をもつ良尚だ。    (あたりだ! 下総の叔父上に何かあったのだ)      父は、ふいに見たことの無い不敵な笑いを浮かべた。   「父上?」   「良将(よしまさ)はのう……死におった」   「え?」    背筋がぞくりとするのを感じながら、良尚は父を見つめた。   「死におったわ。はは……ははは……」  
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