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「鷲太(しゅうた)……」
良尚の口からこぼれ落ちた言葉は、傍らにいた幼い子どもに拾われた。
子どもはじっと良尚を見上げる。すると、秋晴れよりもまぶしく暖かい笑顔が彼にきらきらと降り注いだ。
「鷲のように勇ましく、自由にどこまでも飛んでいけるように。おまえの名は今日から鷲太だ」
子どもは微かに唇を動かした。
良尚は、その唇の動きが“しゅうた”と読めると、再び破顔した。
「そうだ、鷲太。気に入ったか?」
子どもは、こくんと頷いた。
良尚はその様子を見て、頷き返す。そして再び青空を見上げた。
その瞳には何が映っているのだろうか。鷲太は必死に良尚の視線を追った。
「鷲太。おまえは風に乗ってどこまでも遠くへ飛んで行くんだ」
鷲太は良尚を再び見上げた。その良尚の目が、一瞬、さびそうに伏せられた気がした。
急に良尚の背中が小さく見え、鷲太は鷹雄の言葉を思い起こしていた。
『おまえにも、新しい人生を下さる。だから、あの方のために生きろ』
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