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呻きながら右に左にのた打ち回る炎の塊が、ついに動かなくなるまで十秒間。
その場にいた誰もが息をすることを忘れた。
村は水を打ったような静けさに包まれた。
明らかに、何か恐ろしいことが起きている。尋常ではない何かが。
松吉は、固唾を飲んで、村の入り口を見つめる。その視線の先で、パチンと、垣根の枝が炎の中で弾けた。
そして、それは───姿を現した。
(な、なんだあれは……)
松吉だけでなく、その場にいたすべての者が同時に息を呑む。文字通り、災厄が歩いてきたのだ。
白く輝く毛をもつ、大きな獣の形をした災厄が!
その大きさや、牙の鋭さもさる事ながら、松吉の目を奪ったのは、その体を取り囲む赤い炎。
確かに、炎に覆われているというのに、白い毛が燃えている様子もなければ、熱さを感じている様子もない。
文字通り、炎に“包まれて”いるのだ。
同じく激しい炎に包まれていた先ほどの男とは、似て非なる光景が、いっそうの恐怖心を生み出すようだった。
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