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このままでは、あのバケモノに殺される!
さっきの男のように。
生きたまま焼き殺される!
そう想像するのは一番自然なことだ。松吉ですら、火だるまになった自分の姿を一瞬、想像した。
「……バ、バケモノだ!」
誰かが、声を発した。その声は、まるで水鏡に一滴の雫をたらす様に、静まり返った村に波紋を生んだ。
いっせいに人々が、逃げ場を求めて、走り出す。
恐怖から逃れるため、我先にと駆けていく。しかし、先ほど自分たちが着火した家屋の炎は、もともとそれほど広くはない家屋と家屋の狭間に、横いっぱいにはみ出し、行く手を阻んでいた。
おかげで、無傷で通過できそうな道幅は、せいぜい一人通るのがやっとというところだろう。
そこへ多くの者が殺到すれば、無理が出る。
その浅ましさといったら、無かった。
兵士たちの殴り合い、蹴飛ばし合いが、すぐにあちこちで目に付くようになる。それが殺し合いとなるまで、時間はかからなかった。
しかし、村人たちの多くは、その争いの中心にはいなかった。出遅れたものがほとんどだからだ。
鮎太郎も、思わず腰を上げたものの、動けない松吉のことが頭をよぎって、その場で立ち尽くしていた。
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