17 風にのせて(後編)

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 そこへ、同じくその場から動かなかった肝の据わった男が、大きな声を上げた。 「何をしている!! 矢を放つのだっ!!」  村に扶の太い声が響きわたった。六割ほどの扶の私兵が、ぎくりとなって、動きを止めた。  争いあっていた者たちも、お互いに顔を見合わせたかと思うと、持ち場に戻った。一瞬で本分を思い出したのだろう。  結局、二十余名が主人と獣の間に立ち、弓を構えた。 「放てっ!」  扶の声にあわせ、無数の矢が放たれた。矢は放物線を描いて、いっせいに獣に降り注ぐ。 (やったか!)  兵士たちの奮闘ぶりを見守っていた松吉も、眼差しに期待をこめた。さすがの獣も、これではひとたまりもないだろう。  しかし、すぐに期待は絶望となって、松吉を凍りつかせた。 (矢が……消えた……。一つ残らず……)  放った矢は、獣を傷つけることはおろか、触れることすら出来なかった。白き獣を包む炎が、一瞬にしてすべての矢を焼き消したからだ。  矢は、まったく無力だった。  誰もが戦意を手放し、立ち尽くす中、ついに獣が動いた。  松吉が瞬きをした次の瞬間、白き獣は兵たちの手の触れそうな距離に、悠然と立っていた。
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