17 風にのせて(後編)

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  「今、鷲太の声がしなかったか!?」 「何、言ってるんだ、こんな時にっ! さあ、逃げよう!」  松吉には、確かに聞こえたのに、すぐ近くにいる鮎太郎には聞こえ無かったようだ。  だが、確かに鷲太の声だった。  空耳だったのだろうか。  いよいよ、死期が近いということだろうか。  松吉が小さくため息をついた時、再び松吉の頭に声が響いた。 『松吉さん。僕だよ』  無言で、松吉は前方を見た。獣の瞳が煌く。  ふわりと柔らかな風が、松吉の髪を揺らしたかと思えば、松吉のすぐ目の前に、獣が瞬時に移動した。  いつの間にか炎が消えていて、触れるほどの至近距離で見た獣の白い毛は、透き通るように煌いて見てた。  触れば羽毛のように柔らかく、お日様のいい匂いがしそうだ。 「……鷲太なのか?」  松吉の手が、吸い込まれるように獣の鼻先に伸びていく。 『そうだよ。僕だよ』 「本当に、鷲太なのか?」  松吉の瞳をじっと見つめながら、獣は口端を少しだけ上げた。 (笑った……?) 『みんなを迎えにきたんだ』    その瞬間、この恐ろしい獣が、確かに鷲太に見えた。
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