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「だめですね。遅かったようです。生存者は──」
後からきた男はそう告げると、すっと顔を上げたので、そこで彼は男と目があった。
「生存者は、その子供だけのようですね……」
「そうか……」
良尚と呼ばれた人物は、苦しそうに顔をしかめ、目の前に広がる赤い村を眺めやった。
「すまなかった……私がもう少し早く気づいてやれれば……」
彼は静かに、良尚を見上げる。その大きな良尚の瞳は、青空に舞い上がる炎を映し出していた。
「もう少し……私が……」
彼にはその良尚の大きな瞳に、自分の胸が切り刻まれるような痛みを感じた。
この人はなんて泣きそうな顔をしているのだろう。
なんて苦しそうな顔をしているのだろう。
(みんなが死んだのは、この人のせいではないのに……)
それなのに、必死に泣くまいと唇を噛しめ、挑むような目つきで“赤”を睨みつけている良尚の姿が不思議だった。
この人は、“赤”から逃れられると思っているのだろうか。
“赤”に勝てると信じているのだろうか。
不意に、良尚が彼を見下ろした。
視線が交わったその瞬間、彼の胸がどきんと跳ね上がったのがわかった。良尚の大きな瞳の奥に暖かさを感じた。
良尚がそっと彼に手を伸ばし、優しく頭をなでた。その手の平が彼に、強く訴えかけてきたような気がした。
『生きろ』と──。
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