第十一話 運動会と俺

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    『……運動会……何?』 この言葉から、棗に『運動会』の知識を叩き込むことが始まった俺の約二週間。 約二週間前のあの土曜日の次の日、つまり日曜日。若干朝寝坊な俺と棗が、共にリビングでくつろいでいるときに彼女が小さな声でつぶやいた。 といっても、俺と棗が母さんについての会話に賑わせていたときなんだが。 こんな会話だ。 一一こっから回想一一 『そういえばさ……、棗と母さんで運動会見に来るんだよな? そのことに対しての母さんへの質問はないのか?』 『………………こくっ』 ……まぁ質問があるならすぐにでも言ってほしいんだけどな。 『観覧者用応援席とかって用意してんのかな?』 『………………こくっ』 ……? 何故棗がそのこと知ってるんだ?まさか……、 『運動会って美味しいよな。マヨネーズをかけると風味がUPするってよ』 『………………こくっ』 ……まさか本当に棗、運動会という単語、知らないのか? まさかとは思うけど……。 つまりあれか? 棗が運動会という単語を理解せずに、勝手に俺と母さんが話を進めていたってわけか? なんか棗、取り残されてるよな……いろいろとさ。 そう分かっていながらも一応聞いておきたいと思う。 『棗、運動会ってのが、何のことだか分かるか? さっきから適当に相槌打ってるような感じがするんだけど……』 『…………こくっ……』 さっきのとは違い彼女は強く頷いてみせる。 そしてこちらに見せる微少な微笑。 かなり分かりにくい。あんまり無表情のときと変わらないのだが……俺には分かる。 ん、いや……こら、そこ。素直に頷くな。 『……運動会……何?』 ……はぁ、仕方ない。これは一から説明するというフラグが建っちまってるようだな……。  
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