4719人が本棚に入れています
本棚に追加
ジムを完全に登りきり、彼女の横に腰かける頃には、俺のいたずらな冒険心は陰を潜めていた。
ジムのてっぺんを流れる空の風、お昼過ぎのやや暖かな優しい風。
そんな風が俺たちを包んでいるかのようにも思える。
てっぺんからの景色……とはいっても、公園のジムなわけだからたかが知れてるが、それでも公園内を一望出来るくらいの高さはある。
まぁそんなジムの上ってことだ。
「登ることに対しては特に意味はあったのか?」
「……………………。」
『登りたかったから登っただけ』。そんなようなことが俯いた彼女の表情から伺える。
まぁなにごとも、必ず意味があるから物事を進める~なんてことでもないよな。
まぁいいのさ、こんなことなんて。
今はただこの風を感じていたい。
……ただそれだけのことだ。
公園内には俺たち意外いないがための静けさが、
よりいっそう周りの木々や草むら、そういった類の自然の音をひきたてる。
「風……気持ちいいな。部屋の中じゃ感じれないな、これは」
「…………こくっ……」
いつも通り、彼女は無言で小さく頷く。
こういうときはどうしても『のほほん』としてしまう俺だ。
そんなわけで、軽く数分間、俺と棗は、風という名の“外”を感じていたってわけだ。
最初のコメントを投稿しよう!