第十一話 運動会と俺

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  「母さん、運動会朝っぱらから悪いんだけど……、あんた、棗に何をした?」 キッチンにいる母さんに俺は問いかける。 フライパンなんかを握っているところ『だけ』を見れば、主婦らしく見えるだろうな。 「特に何も? 寝ようとしてる棗ちゃんの布団に潜り込んだだけだけど?」 「めっちゃ心当たりあるじゃねーか」 棗と狙って添い寝なんて俺だってしたことないのに。 そんな母さんを俺は心から恨みます。いや、嫉妬してます。 「もちろん拒否したよな? 添い寝許したりしてないよな!?」 「こくっ」 お、対応早いな。 さっきからこちらを向いている棗が、俺が問いかけた瞬間に頷いた。 「さすがは俺の棗だ。偉いぞ~」 棗の頭を撫でてやりたいのだが、拒否られそうなのでやめておく。 それよりも……だ。そんなことをしようとした母さんをきつ~く叱ってやらねば。 フライパンでいかにも卵焼き焼いてます的な母さんに俺は一言。 「棗は純粋なんだ(多分)。変な悪戯をしないでくれ」 これ、切実な願い。 リビングにあるテーブルに肘をつく俺の隣の棗も母さんの方を見つめている。 正直母さんには失望してます、はい。 「……はいはい、分かりました。手は出しませんよーっと。 それよりもあんた……時間大丈夫なの?」 「…………知らん」 時間なんて……。 時間な……。 俺は壁にかけられている時計を確認。 俺の心が『急げ』と騒いでいるようです。 母さんのせいで無駄に時間がかかったな。    
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