第十一話 運動会と俺

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「それじゃ、行ってきまっせー」 「お弁当持った? かばん背負った? 下着つけてる?」 「どこぞの変態だ」 いや、変態なのは認める。 ただ……玄関出ようとした瞬間に言わないでくれ。もう靴もはいちまった。面倒なんだから。 棗のことで母さんを叱ったあと、なんかいろいろと支度を整えたのちに、彼女と若干見つめ合ったりして、俺は実にささやかな時間を過ごした。 そんでもってちょうどいい時間が流れたあと、俺は玄関をあとにする……直前だったわけだ。 「棗、行ってきます」 改めて俺は彼女に告げる。 「…………いってら」 行ってらっしゃいな。心の中だけでツッコミを入れておくことにする。 母さんの隣で、俺にしか分からないような微笑みをこちらに向ける彼女。 ……表情、増えたよな。 つくづくこんな状況でものほほんとしてしまう俺だ。 俺は彼女と目を合わせてから、静かに扉から手を離す。 今日は……学校で会えるんだしな。 母さんはおまけだ、おまけ。棗がメイン。 俺はいつもの商店街までの道を、いつものペースで歩く。 いつも通りの日常。 今までは毎日過ごすのがあんなにも憂鬱だったのに。 今じゃ過ぎゆく毎日が惜しいくらいだ。 まぁこんなしんみりしててもしょうがないよな。またまだ先は長い。ゆっくりと時を刻んでいこう。 俺は学校への道を歩いている。ひたすら……歩いている。  
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