第十一話 運動会と俺

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回想に浸ろうかな~……なんて思った俺だが、よくよく考えてみればあんまり覚えていない。 この運動会という保護者が周りで見守るフィールドの応援席で、あたかも『考える人』的な格好をしてしまう俺。 ほら、足を組んで腕を額に……という感じの。 ……出てこないもんを考えても意味ないよな、うん。 俺は顔を上げ、周りを見渡した。 青く澄み切った空の下。揺らぐ紅白の巨旗。 地には一年生。全員集まったらしく、足踏みを開始している。 今にも入退場門をくぐりそうなくらい。 やっと雰囲気が運動会らしくなってきたな。 「これよりプログラム三番、一年=全員リレーを始めます一一」 さて、そんなことを考えているうちに、種目説明の放送と入場のBGMが流れ出す。今流行りの曲。 どうもアニソンは流れないらしいな、公共の場所では。 一年生、退場のときのように紅白の列が二手に別れ、トラックを半周してグラウンド内に入る。 だいたいの入場がこれだよな。 色々と説明の放送が続き、そのあとで一年生徒四人がそれぞれトラック内に入る。 しばらくの沈黙、そして中途半端なリアルさに欠ける銃声音、はびこる火薬の匂い。 トラック内、運動場内、応援席、全ての空気が流れた瞬間だ。 ……他の応援席が徐々に応援で溢れてゆく。 まるで多人数でやるズレを利用する“ウェーブ”のように。 トラック内を走る一年生徒。自分達の応援席の前を走る瞬間に歓声が沸く。 是非とも二年生の全員リレー、走りたくないものだよ、うん。  
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