第十一話 運動会と俺

48/95
前へ
/558ページ
次へ
さて、そんな歓声の真っ只中、俺は最初の自チームの一年生数人を見た後、今度は校門に目をくれる。 そろそろ棗が来る頃かな~なんて思ったり。 まぁただ見てしまうことに根拠なんてない。 棗と母さんがいつ来るかなんて聞いていなかったし。 ただ……早く来て欲しい俺がいるんだ。 俺は椅子から立ち上がり校門の方へと首を向ける。 後ろの人の邪魔? 知りません、そんなの。 校門にはちらほらと見える保護者の方々。 まだまだ運動会は始まったばかりだからな。 これから来る保護者さん方もいるのだろう。 棗と母さんもそれに含まれているんだろうな。 まぁとにかく、母さんと棗が来てくれないと、この胸のざわめきが消えない。 ……つまり集中できないってわけだ。 いつもの学校なら“来ないと分かっている”からこの思いは簡単にふっ切れる。 でも今日は……棗と“学校”で会える。 こんな貴重な時間を逃してたるものか。 一分一秒でも無駄には出来ないよな。 母さんにいつ来るか聞いておけばよかったな……。 そうすればこんなそわそわな感じにもならなかっただろうのに。 俺は再び椅子につき、校門とトラック内を交互に見渡す。 トラック内では途中は見てはいないが、結構競り合ったいい勝負となっていた。 校門はやっぱり相変わらず。 ……やっぱり気が散るな、うん。 「どうした? さっきからそわそわして」 そういきなりこちらを向いて前の方から俺に話しかけてきたのは部長。 「あ、いや、なんでもない、うん」 こういうのしか言えないよな。 ……集中しなきゃ。年一回の運動会だもの。 なんかやりきれない気持ちでトラック内を見つめる俺。 やっぱり校門が気になるのはこの際しょうがないということにしておこう。  
/558ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4719人が本棚に入れています
本棚に追加