第十一話 運動会と俺

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「意外に早くも遅かったな」 もう少し遅く来るかな……というがっかり感と、早く来て欲しかった期待感からの言葉だ。 「………………?」 引き続き俺の服を掴みながら、ほんの少しだけ首を傾げる彼女。 多分これは疑問の表情だろう。 さて、返声なしの会話を進めている俺と彼女。 そしてそんな俺らを見つめる者が一人。 「ん? 誰その娘。作者の知り合い?」 先程まで、全員が走り終わり、余韻に浸っているリレーに集中していたクラスの女子が俺に話しかけてきた。 ……棗への質問じゃないからよかったな。 この様子だと今日が棗の一般人との初交流とかになりそうだ。 「あ、あぁ。一一棗、場所を変えよう。母さんの場所に連れてってくれ」 なんか長くなりそうだったから、ここらへんで俺がこの女子に一手王手をさしておく。 適当に女子に返答したあと、俺は棗をこの応援席から連れ出した。 「ふぅ……。よし、棗、母さんのところに俺を連れていってくれ」 一息の安堵のため息と共に再び同じことを彼女に言った俺。 「…………こくっ……」 それに対して小さく頷く彼女。 俺と軽く目を合わせたのち、彼女俺を背に一歩踏み出した。 それについていく俺。 棗……母さんの場所覚えてるよな? まさか適当に歩いてるわけじゃないよな? 無性に問いたい俺なのだが、そこは失礼に値するのでやめておくー。 彼女の自信ありげ(に見える)な足どりを見る限り、大丈夫だろう。 ……多分。  
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