第十一話 運動会と俺

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そんなわけでトラック内、走者から走者へと渡る真っ白なタスキを眺めながら、隣の男子の足に手ぬぐいをくくりつけている。 え? 動作が遅い? 知りません、そんなの。 競技中での最後の微調整だばかやろー。 こちとら途中で手ぬぐい解けたりしたら失格なんだよこんちくしょー。 ……とまぁ脳内乱れぎみの俺なのだが、俺たちの組が走る順番に近づくに連れ、胸の高鳴りが強まってきた。 緊張……か。いろんな意味でそんなもんは俺には無関係だと思ってたんだけどな。 一一俺(+俺の組の他5人)は後ろから迫りくる一つ前の組に備え、トラック内に入った。 緊張という言葉も、彼女の前でなら“良い意味”の方の緊張になりそうだ。 ほら、適度な緊張、適度な余裕ってやつ? この胸のドキドキももう少し収まってくれると非常にありがたいんだけど。 一一最も内側の男子組員(と呼ぶことにする)が前組からタスキを受け取り、 そのタスキを胸にかけ、その男子組員の掛け声とともに、俺たちは一歩一歩と足を踏み出した。 走り出せば、この胸の高鳴りは、ただ単に心拍数の増加……ということになってしまう。 一、二、一、二、という掛け声に合わせ、先程までは緊張にやられて、若干動きにくい足を無理矢理交互に前に出し、 組員全員心を合わせ、少しずつ加速していく。 一志の乱れもない、ただ一心の前に進む皆の心。 一つに合わさったこの瞬間が、俺たちのトップスピードを出す条件だ。  
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