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トラック内を着実に、しかし一定の速さで走る俺たち組員。
観客のことなんか視界には入っていないのかと思うくらいに。
確かに観客は見えている。観客は見えているんだ。
ただ……その“目”から入った情報は脳にまでは届かない。
前に進むという一心の義務が脳をシャットダウンしていたらしい。
ただ……彼女、棗の姿が目に入るまでは。
溢れかえる人込み、保護者スペースの中で、俺を見つめる彼女の瞳。
こちらを見つめるその瞳と、そして……微かに開く彼女の口。
『一一一一一一。』
観客席から聞こえる雑音のせいで何を言っていたかなんて聞き取れない。
でも……、理解は出来た。微かに開くその動きによって。
俺は、シャットダウンしかけていた俺の脳を再び起動し、そして俺の体へと指令を出す。
俺は……彼女に向かって、走りながらも頷いた。
彼女が分かるように、しっかりと気付けるように。
一、二、一、二、という掛け声を更に強くする。
意気込み。己の心の筋を折り曲げないように。
彼女の後押しを受け取って、掛け声は更に、更に大きくなる。
彼女に俺は答えるかのように。
彼女が俺を見ていてくれる。
彼女が俺を見ていてくれる。
俺が頑張れるのには、それだけで充分なくらいだ。
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